“既に手放していたと思っていた曲が突然姿を現すときがある。その時々に馴染まず置き去りにされた曲。それらは、新しい曲ではないということで過去のものとして扱われてきた。
姿を現す度に思い出しながら演奏してみる。気に入らないわけではないのだが、遠い昔に書いた曲には過去の匂いがする。過去にこだわるのは格好悪いと、格好悪く片付ける。こんなことを何度繰り返しただろう。
経験によって技術は備わっていくが、持っている旋律の柱は変わらない。今も昔もこの先も、道を踏み外さなければ。
ここに収録されている曲は、一貫して夏の気配を含んでいる。
少年時代、毎年夏休みは母方の実家のある広島に家族で遊びに行っていた。広島の東、東城町からさらに奥地の入った神石高原町にある集落。祖父からは度々戦争体験を聞いた。
今でも夏になると神石高原町を思い出し、戦争の話を思い出す。祖父から語られた戦争を、自分のフィルターを通して見た光景は、静かで青白く寂しかった。”(作品に寄せて)
夏はサイケデリックな季節と決めつけて、二十代前半の曲はやたらと夏という言葉を連発していましたが、今になって詞を読み返すと戦争を想起させるものが多くて不思議です。その頃はレコードにハマり出した頃で、下北沢のディスクユニオンで偶然手にとり、気になって買ったレコードがPearls Before SwineのBalaklava(’68)でした。ESP-Disk’のオリジナルではなく、再発のBase Record盤だったので安価でした。Balaklavaがバンド名だと思い込み、友人に指摘されるまでそう呼んでいました。その音楽にどっぷり浸かり、楽器編成や深いリバーブを真似たりと色々影響を受けました。
今回の録音を始めたくらいにふとこのレコードのことを思い出し、なんとなくネットで調べてみると、反戦を掲げたアルバムなんですね。ジャケットがそれを匂わせるデザインだったので合点しました。今のタイミングで記憶から引き出されたのは自然なことのようです。
夏は特に戦争のことを思い出します。これからもずっとそうでしょう。戦争は嫌ですね。
斉藤友秋